宮浜アドベンチャーズ
― 企業の取り組み紹介 ―
We love 湯(ユー)!現代の冒険旅行で、温泉街を守れ 一 宮浜アドベンチャーズ

代表取締役社長 檜谷 直史様
廿日市市の宮浜温泉では、「宮浜アドベンチャーズ」による、地域の未来を守るための新たな挑戦が始まっている。その旗振り役を務めるのが、1965年創業の「湯の宿 宮浜グランドホテル」3代目、檜谷直史氏。日本三景 宮島を対岸に臨む絶景の地にある「宮浜温泉」は、ラドンを含む名湯として長く愛されてきた。
目の前に広がる大野瀬戸は全長約10kmの海峡で、宮島航路のフェリーが行き交い、特産の牡蠣筏が浮かぶ、瀬戸内を象徴する風景。ここで育まれる「大野あさり」は、伝統の手掘り漁法と徹底した資源管理により、漁業者(前潟干潟研究会)は2020年に農林水産祭の最高位である「天皇杯」を受賞。檜谷氏率いる「宮浜アドベンチャーズ協議会」は、宮島観光と温泉という従来の魅力に加え、この圧倒的な自然と食に、文化を融合させた多彩なアクティビティを提供している。大野瀬戸・宮浜エリアを舞台にしたサステナブルツーリズムが、シビアな現実の課題を解決する鍵になるかもしれない。そんな可能性を檜谷氏に伺った。

宮浜温泉の華々しい誕生、「挑戦」の歴史ともに歩んだ祖父の言葉
1965年5月1日、経小屋山(きょうごやさん)の麓に県下最大の温泉郷、宮浜温泉が誕生しました。旧大野町が戦後荒廃した保養地の復興を唱え、湧水が豊富なこの宮浜で温泉開発を進め、広島市内からもアクセスの良い湯治場として熱心に企業誘致活動を行った結果、11軒の温泉旅館が一斉に進出。最盛期には十数軒の施設が並んで、ボーリング場やプールもありました。開湯と同時に、岩国から居を移した祖父は「宮浜荘」を開業。1973年に増築し、「宮浜グランドホテル」と名を改めた頃には、高度経済成長期の終わりを告げるオイルショックのあおりを食らって、街の様子が少しずつ変わり始めていました。
私はそんな宮浜温泉のなかで育ちました。大学進学を機に上京し、そのまま大手旅行会社に就職して、ずいぶん迷いましたが、1999年31歳の時に、同期だった妻を伴って帰郷し、「宮浜グランドホテル」に入社しました。その頃には設備の老朽化が目立ち、客足の勢いも衰え、6軒の宿が踏ん張っているという状況。変わらないのは、この美しい眺めでした。子どもの頃に祖父がいつも、「このあたりの山や海でなんかしたらええのに…」と話していました。自然という普遍的な価値に目を向けた「観光の本質」を突く言葉です。


「通過点」を「目的地」に変えるストーリーテラー
「温泉街に賑わいを取り戻すために、一緒に何かしよう!」と、帰郷して間もなく、先輩の「旅館かんざき」の神崎さんに誘われ、2001年に「宮浜温泉まつり」をスタートさせました。今では名物企画となった「まくら投げ世界選手権」ですが、きっかけは、第1回開催前日に、「石亭」の上野さんから「温泉といえば枕投げ。『まくら投げ世界選手権』とかいう面白い催しがあるらしいから、うちもやってみよう。テレビ局も呼んであるから。」という提案でした。迎えた本番は、まさにカオス。当時は互いに手探り状態で、「枕を一番遠くに投げた人が優勝」というルールだけ決めて、とにかくやるしかない。あらぬ方向へ飛んだ枕がビール瓶をガシャンとひっくり返し、後始末に追われるばかり。でも、最高に楽しかったんです。あのドタバタ劇の中で、「この街の温度感こそが武器になる」と手ごたえを感じていました。
その後も、宿が4軒にまで減る厳しい時期もありましたが、現在は再び10軒前後にまで活気を取り戻しています。今月1周年を迎えた「ペンションあんばらんす」の藤崎さんのような新しい力も、今は「宮浜アドベンチャーズ」のガイド役として並走してくれています。

「滞在型リゾート地」への舵を切る
廿日市市は、かつて江戸の旅人を癒した宿場町でしたが、交通アクセスの向上によって、宮島観光の多くが日帰りで完結し、地域への経済波及効果が限定的であるという課題を抱えています。地域経済を真に活性化させる鍵は、宿泊客が地域に留まり消費を促す「滞在型観光」への転換にあります。
宮島周辺でホテルや飲食店、観光施設の開業合戦が加速する中で、宿の役割って何だろう、と。それは、この街が守り続けてきた豊かさを正しく伝えることです。
宮島の賑わいから一歩離れた対岸、大野。ここにあるのは、ブランド牡蠣や大野あさりを育む豊かな海と、それらを守り続ける漁師たちの姿です。この「本物の資源」を観光の枠に留めず、地域の誇りとして分かち合いたい。そして、「人の顔が見える距離感」をどう伝えるか。大野エリア特有のゆるやかさや、ビール瓶をひっくり返しても笑い合える関係性を価値に変える施策が必要だと思いました。

100周年への逆算、「宮浜らしさ」の再定義
2065年の開湯100周年を迎えるまでに成し遂げたいことを話し合い、2018年に宮浜温泉地域管理組合が「宮浜温泉100年ビジョン」を策定しました。海(シーサイドエリア)、山(ウォーキングエリア)、温泉(スパエリア)の3つにゾーンを区切り、目指すべきゴールを共有することで、それぞれが明確な役割を担い、果たすことができます。
例えば、経小屋山の登山道の整備や、温泉街のそぞろ歩きを楽しむ遊歩道の提案など、ビジョンに沿って具体的に計画を進めています。地域の憩いの場として20ヶ所に四阿(あずまや)を建てる計画は、宮島工業高等学校の生徒たちが卒業制作として20年かけて1棟ずつ建築しています。そぞろ歩きたくなるように、四阿を週末店舗やギャラリースペースとして活用しようというアイデアもあります。「宮浜らしさ」がどう進化していくのか楽しみです。



地域の「日常」を、最高の「非日常」へ―循環が創る新しい旅の形
大野瀬戸・宮浜エリアに点在している唯一無二の体験を「宮浜ブランド」として一つにまとめることで、エリア全体の認知度を向上させることができるのではと考えています。
2019年に立ち上げた「宮浜アドベンチャーズ」は、2023年にアトラクティブジャパンアワード大賞、そして2025年に初開催された広島県観光連盟のHYPP AWARD(ハイプアワード)で最優秀賞を受賞しました。評価されたのは、地域の「生業(なりわい)」を観光の主役に据えた、ここでしか味わえない独創的な体験型観光プランです。旅行会社時代に培った、新しい旅を提案するという視点を活かし、社内改革と並行しながら、地域一丸となってプラン作りに邁進してきました。
海から宮島を目指すシーカヤック、宮島の伝統的な神事「七浦巡り」を体験する海上参拝クルーズ、専門ガイドとともに絶景を目指す「経小屋山ハーフトレッキングツアー」など、周囲の事業者と連携し、この土地の息づかいをパッケージに凝縮しました。
廿日市市は食の宝庫でもあります。大野瀬戸の恵みを五感で味わう、これこそ私たちが提案する冒険旅行の醍醐味です。プライベートビーチで、あるいは山腹の絶景を眺めながら、一年中楽しめるブランド牡蠣「かき小町」をその場で焼いて味わう贅沢。「人生で一番おいしい牡蠣でした!」という感動の声を頂くことも。
さらに、冒険家の山下健一さんが案内するセーリングや、筏型船の海に浮かぶレストラン「HANAIKADA」でのマジックアワー・クルージングでの幻想的なひととき…。日常の喧騒を離れた「静」の安らぎと、自然の懐へ飛び込むダイナミックな「動」の刺激が交差する、それが「宮浜」という場所の深みです。
シーカヤックやクルーザー等の発着拠点である奥新渡船の桟橋(通称:宮浜桟橋)は、「宮浜の活性化のために使わないか」と、宮浜を愛する奥新さんのご厚意により託され、仲間たちで修繕しました。この場所は、地元の人々と旅人が繋がる「共創」のシンボルです。将来は新鮮な海の幸を堪能できるフィッシャーマンズワーフのような場所にできたらと、夢を語り合っています。
ツアーの締めくくりには、2ミシュランキーに選出された名宿「石亭」の庭で、宮浜の復興の歴史を語り継ぎ、平和の尊さを共有する時間を設けています。 私たちの掲げるサステナブルツーリズムの本質は「循環」にあります。地域の資源をただ消費するのではなく、観光を通じて得た利益を再び地域へ還元する―海岸線の景色を守るため、宮浜アドベンチャーズの収益の一部を環境保全活動に寄付し、水源となる山の整備も続けます。この街の「日常」を、次世代へ引き継ぐ活動を本格化させています。


次世代へのメッセージをお願いします!
「広島県は5年連続で転出超過が全国最多」、特に20~30代の流出が深刻だと世間は騒いでいます。しかし私は、少し違う見方をしています。若い人が「外の世界を見たい」と動くのは自然な成り行きです。それだけアグレッシブに行動できる若者が全国で一番多いのだとしたら、広島はむしろ「すごい県」なのではないでしょうか。
もちろん、外の世界は良いことばかりじゃありません。しかし、自分にとっての「好き」とか「心地よさ」を知る判断基準は、その対極にある「苦手」とか「最悪だ」を経験してみないとわからない。わからないから、未来が不安だからといって、今の場所がつまらないわけじゃない。
大切なのは、帰りたいと思った時に、戻りやすい環境をつくること。仕事は当然、仕事以外の要素も含めて。「帰ってきたらこういうことができるようだ」という情報を発信し、「器」を準備しておくことが必要ですよね。そのための「宮浜温泉まつり」、そのための「宮浜アドベンチャーズ」です。
「宮島アドベンチャーズ」が提供する多彩なアクティビティは、単なる娯楽じゃありません。地域の雇用を生み、若者が自由に行き来し、次世代へ豊かな自然環境を継承するための貴重な資金源となります。宮浜温泉の挑戦は、地方が抱える多くの課題に対する一つの有力な解決策となるはずです。
私はいつでも、プラス思考です。山のガイドをすることで、私自身の健康維持になります。仕事場以外のもう一つの場、僕の場合は、バンドでの音楽活動です。そんな時に仕事のアイデアが生まれることもあります。私たち一人一人が自分の人生を輝かせていれば、地域が輝く。地域一体となって未来を切り拓く「冒険」は、今まさに加速しています。
ワクワクしたかったら、宮浜温泉へお越しください。もし、温泉街で、カフェとかパン屋さんとか立ち寄れるようなお店屋さんを開きたいと思っている方がいらしたら、その挑戦を喜んで応援したいと思っています。 冒険の後の心地よい疲れを癒やすのは、やっぱり温泉です。宮浜グランドホテルの絶景露天風呂「マルミエロテン」は、屋上から大野瀬戸と宮島を一望できるインフィニティ温泉で、朝日や星空の下、まっさらな開放感で満たされますよ。ぜひ入っていってください!

取材日:2025年12月
宮浜観光株式会社 宮浜アドベンチャーズ
- URL:https://miyahama-adventures.jp/
- お問い合わせ先:miyahama.adventure@gmail.com

\ FMはつかいち × 今こそ廿日市 /
地域密着で新たな価値を届けるため、FMはつかいちと今こそ廿日市が連携し、SDGsを軸とした取材・発信が実現しました。この記事は、ラジオ番組「ECOしま専科」と連動しています。

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