はつかいち森のあそび場協議会
― 企業の取り組み紹介 ―
事業者連携で実現した 「地域を守る観光」モデル 一 はつもり

(左から)アシュリー様、監事 森田啓介様、会長 戸野真治様
廿日市市の佐伯・吉和エリアで、2021年4月に結成した「はつかいち森のあそび場協議会」(愛称:はつもり)。異業種の事業者が連携し、SDGs教育旅行やエコツーリズムという市場を開拓している。
強みは「組み合わせ」だ。オリンピックメダリストを輩出したアーチェリー場、教科書に載る名画と出会える美術館、多言語対応スタッフ、農業体験——。事業者の組み合わせ次第で、旅のプランは自由自在にカスタマイズできる。
「求められる旅を提供する取り組みを広げれば、住み続けたいまちづくりのヒントが見つかるかもしれない」協議会会長で佐伯国際アーチェリーランドオーナーの戸野真治さんはこう語る。
「生命を守る授業を提供したい」と話すのは、県立もみのき森林公園副園長で協議会監事の森田啓介さん。
地域ぐるみで育む新しい事業モデルを紹介する。

戸野さん、はつもりって何ですか?
宮島から佐伯・吉和へと向かう車窓に、春は桜、秋は紅葉した木々のアーチが映ります。冬の足音が聴こえると、めがひらスキー場のオープンが待ち遠しくなります。夏もいいですよ、このあたりは広島県内有数の最高の避暑地で豊かな水源の森が広がっています。今年初開催の、(一社)日本野菜ソムリエ協会主催「全国夏いちご選手権」で最高金賞を受賞した吉和ラフレーズの『冠苺』や、わさび、あわび茸、大長なすなど希少性の高い高級食材や、有機栽培に力を入れている生産者など、食の魅力が訪れる人々を惹きつけています。 そうした佐伯・吉和のいいとこ全部を体験してもらい、誰かに伝えてもらって、中山間地域が抱える課題解決につなげるきっかけにしたいと「はつもり」を結成しました。アーチェリー、スキー、農業体験など、お好きな体験の組み合わせを選んで頂いて、すべての人を対象にした、ここでしか得られない教育旅行や体験プログラムを提案するネットワークです。エコツーリズムの運営で環境保全と地域活性化を両立させることを目指しています。


オーバーツーリズムの解決策は中山間地域にあった
日本に長期滞在する外国人が増えています。オーバーツーリズム問題を解決するためにも、地域に残されたものを新たな強みとして売り出し、地域の事業者を活用してもらいたい。これはビジネスチャンスなんです。地域事業再生パートナーズの今若明さん(現在は事務局担当)が「戸野さんのところは外国人観光客が大勢いらしてるんですね」と声をかけて下さって。2018年頃、事業者どうしで初めて集まり、お互いの事業を取り込んでみようと、アーチェリー場で温泉施設の割引券を配ったりして、地域を周遊する働きかけを始めました。それから「はつもり」を立ち上げて、SDGsの視点から野外活動や遊びのプランをそれぞれの事業者で考えていきました。
廿日市市は広いんです!海から山まで植生も異なれば、お天気も変わる。カヌーを楽しみ、温泉に入って、スノーリゾートで過ごす。廿日市市は自然を舞台にしたグリーン・アトラクションを体験してもらえる理想的な観光地です。例えば1泊2日でいくつかの事業所を巡る「モデルコース」を提案しています。 アーチェリー体験の後、キャンプ、野外炊飯や薪割り体験、雨天時はウッドワン美術館へ、食育で収穫体験という具合に、要望や目的を伺いながら組み合わせていきます。


親子2代で理想のカタチに。101歳も通う、国際規格のアーチェリー場
佐伯国際アーチェリーランドは、1972年に父が脱サラしてこのあたりの里山を切り開いて開設しました。初心者もベテランも、年齢、性別、力の差、障害のあるなしに関わらず、国際規格の本格的なフィールドアーチェリーを楽しむことができます。必要な道具は全て貸出無料で、障害者のための競技補助具もあります。
朝6時から「ヒュッ、ヒュッ」と矢を放つ音がすると、101歳の最高齢の常連さんが練習に入っておられたりして。私自身も子どもの頃から親しみ、選手として育ててもらった場所であり、生涯スポーツとしてアーチェリ 一を普及させたいと考えています。現在は日本トップクラスの選手を輩出し、日本チャンピオン、オリンピック選手によるレッスンも行っています。
カヌー、SUP、釣り、キャンプ、森の遊び場づくりなど季節に応じた自然体験プログラムを用意。さらにオプションとして、佐伯を気に入って入社してくれたイギリス人、アメリカ人スタッフによる多言語対応で、 語学を取り入れたレッスンやインバウンドツアーを組むこともできます。
敷地内の花や木の手入れは無農薬です。四季折々の花の香り、実をついばみにくる野鳥のさえずり・・・。しばし日常を忘れて、川に足を浸して読書を楽しまれているお客様の姿もみかけます。できるだけ自然に近いかたちに整備して、五感で感じる体験を提供したいと考えています。地元の佐伯高校アーチェリー部の部活動があり、そこへ、ご近所の農家さんが代わる代わる「野菜を売って欲しい」とやってきて、入り口にせっせと並べるんです。うちはバーベキューコートがあるのでその場で食べられるし、お買い物をする方もいます。地域の生産者が活躍できる場をつくることも大事ですから、手数料や場所代は頂いてません。高校生とおばあちゃん、アスリート、街からのお客様、外国人も、ごちゃまぜで立ち話をします。アーチェリーの普及と同じくらいに、人間の営みに寄り添いながら、森や自然から与えられるとても多くの学びも普及していきたいと考えています。


海外ともつながる今後の挑戦
西洋人の中で「弓道は立禅(りつぜん)である」という言葉が広まっていて、禅やマインドフルネスを目的とした日本の伝統的な和弓(弓道)を体験したいと、うちにやってくる外国人も増えています。
今年開かれた大阪・関西万博でも 「はつもり」のプロモーションが成功し、海外からのいくつかのオファーに応対している最中です。今後は佐伯・吉和の魅力を伝える、質の高いガイドの育成が不可欠です。多言語対応スタッフ、ツアープランナー、宿泊・滞在のための場所、情報発信、すべてに雇用が見込めます。若者のUIJターンのきっかけにもなり、新たなビジネスを立ち上げる人たちも現れるでしょう。
私は子どもの頃から経営者の父の背中を見て育ちました。大学生活で上京したことで、かえって、ふるさとへの愛着が沸いてきて。佐伯・吉和の子どもたちに私たち大人の背中を見せたいし、山の木や花の名前、祭りや行事についても関心を持って欲しい。私たちの活動の始まりは観光の誘客が目的でしたが、私が今感じているのは、外からやってきた人たちが自分たちのまちの魅力を教えてくれるということです。これはすごいです。質問された時に初めて「知らなかったこと」に気づかされるんです。SDGsを入り口に、子どもたちの自然へのより深い理解を後押しし、環境と地域文化を未来へつなぐ「ガイド役」を育てたい、それが私のミッションだと思っています。


森田さん、SDGs教育旅行について教えてください
県立もみのき森林公園は、東京ドーム 86個分(約400ha) の広大な自然公園で、人気のアクティビティが揃う 「フォレストアドベンチャー広島」やサイクリングロード、テントキャビン、オートキャンプ場などの宿泊施設も充実しています。1984年の開園以来、スポーツ合宿や研修などを受け入れてきた実績があり、毎年6月に開催される「ひろしま『山の日』県民の集い」の運営に関わるなど、広島県域で里山の保全活動を呼び掛けてきました。
「はつもり」が小中学校に提案するSDGs教育体験プログラムで最もウエイトを置いているのが「森で育む生命(いのち)の源流教育」です。このコンセプトに基づき、これからの生き方に求められる4つの力を源流の森で習得することをめざし、平和に対する心を育みます。
相互理解力
アーチェリーやジップスライドなど森のアクティビティを通じて、ルールを共有し、他者への尊敬と互いに命を守り合う行動を学びます。
冒険心
性差や障がいの有無にかかわらず、誰もが自分らしくチャレンジする勇気を育みます。ブッシュクラフトや雪山探検で、自ら表現する力を身につけます。
貢献力
林業体験や環境学習を通じて、地域や社会の問題を自ら探求し、解決策を考える力を養います。瀬戸内海につながる源流の森だからこそ、環境問題を「自分ごと」として捉えられます。
食育
森や川の生き物に触れ、農業を体験し、生命の恵みに感謝する心を育てます。災害時に備えた火おこしや薪割り、野外炊飯など、生きるために必要な術も習得します。
子どもたちには遊びを通して、森の中のルールや互いに命を守る行動の大切さを考えてもらいます。災害時に備えて、火おこしや薪割りからの野外炊飯など生きるために必要な術や勇気を身につけるプログラムも準備しています。
今年は冠遺跡から 国内最古の石器が見つかり発掘調査が続いています。何万年も前から人が暮らしていたこの森で、子どもたちは「生きる力」の原点に立ち返ります。「はつもり」に参画している各事業者の特色あるプログラムを、学習や研修の場でご活用ください。森が教えてくれる「生命の源流」を、次の世代へつなぐために。

取材日:2025年9月
はつかいち森のあそび場協議会
- URL:https://hatsumori.com/
- お問い合わせ先:0829-30-8210

\ FMはつかいち × 今こそ廿日市 /
地域密着で新たな価値を届けるため、FMはつかいちと今こそ廿日市が連携し、SDGsを軸とした取材・発信が実現しました。この記事は、ラジオ番組「ECOしま専科」と連動しています。

「ECOしま専科」…
毎週火曜10時~、様々なゲストが公私においてSDGsの取り組みを語り、リスナーとともに持続可能な社会のためにできることを考え続けています。地球のこと、社会のこと、次の世代へ伝えたいことを語り合う〈SDGs+トーク番組〉。インタビュアーは藤井尚子さんです。
